胃薬のタイプと考え方

 1980年代以前は、胃・十二指腸潰瘍で胃を切除する人が多く、薬と言えば胃薬といった時代がありました。しかし、このころから胃酸を強力に抑え、潰瘍に良く効く薬が開発され、潰瘍は内科の病気になりました。また、ピロリ菌の発見とその除菌によって、潰瘍を繰り返す方が激減しました。しかし、食生活の欧米化や肥満が増えたことによって、新たに逆流性食道炎の胸痛や胸焼けを訴える方が増え、依然として胃薬はなくてはならないものです。胃の薬には、①胃酸分泌を抑える薬のほか、②胃腸の蠕動運動を活発化させ食物を順方向に送る薬、③胃の消化作用を肩代わりする消化剤、④胃酸を中和する重曹の様な薬、⑤粘膜保護剤などがあります。我々はこれらを駆使しながら胃を中心とした上部消化管の治療をします。
①胃酸分泌抑制剤
 胃酸(塩酸)は、十二指腸側に多い壁細胞から分泌されます。分泌の指令は、ヒスタミン、ガストリン、アセチルコリンなどの神経伝達物質やホルモンが介在して行われます。胃酸分泌の指令が壁細胞に届くと、プロトンポンプから、塩素(Cl)とともにHが胃内腔側に分泌され、合わさって胃酸(塩酸)になります。
 胃酸を抑えるためには3つの介在物質の作用をブロックしなければなりませんが、もっとも作用の強い介在物質のヒスタミンの働きを抑えておけば、おおむね十分です。これらの薬は、H2レセプター拮抗剤と呼ばれたり、以前からの呼び名のH2ブロッカーと呼ばれます。ラニチジンやファモチジン(ガスター)などが代表です。
 胃酸分泌の最終ステージのプロトンポンプを抑制する薬、プロトンポンプ阻害剤(PPI:ランソプラゾール、

ラベプラゾール)は、現在もっとも胃酸抑制効果の強力な薬です。胃粘膜は皮膚と同様に再生能が高いため、胃潰瘍や胃炎で胃粘膜が傷ついていても、細胞を壊す胃酸を抑えておけば自然に修復するのです。
②蠕動を活発にし、食物を送り出す薬
 胃粘膜の下は三層の筋肉があり縦、横、斜めに収縮し食物を腸へ送り出しています。この動きを促進する薬は、プリンペラン、ガスモチン、アコファイドなどがあります。胃もたれや、逆流性食道炎、機能性ディスペプシアなどで使われます。
③消化剤
 主に、デンプン質を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するプロテアーゼなどを含む消化酵素を混ぜたものが一般的です。胃を切除して消化が悪い方などには効果的です。エクセラーゼ、ベリチームなどが代表で、これらは牛や豚の食べられない部分である膵臓から作られるので、牛肉や豚肉にアレルギーのある方は避けた方が良いでしょう。
④胃酸を中和する
 重曹とも呼ばれる炭酸水素ナトリウムはベーキングパウダーとして親しみ深く、加熱すると炭酸の泡を出すのでパンの生地に混ぜられます。弱アルカリなので、胃酸を弱める働きがあり、昔から胃薬として使われていました。SM散、つくしA・M散など、消化酵素などと混ぜて健胃剤として処方されます。軽い胃の痛みや胸焼けのとき、スッキリと効いた感じがします。
⑤粘膜保護剤
 以前は胃酸を抑える薬とともに、胃・十二指腸潰瘍の治療薬の両輪として多用されていましたが、H2ブロッカーやPPIなどしっかりした薬が出てきたため、補助的な薬になりました。ムコスタ、セルベックス、アルサルミンなどです。その他、胃の粘膜の表面麻酔薬であるストロカイン、ピロリ菌の除菌治療薬のランサップやラベファインなども胃の治療薬としてよく使われます。






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