胃の病気で見る腹痛の起こり方

 再度、胃の断面図をご覧下さい。胃の粘膜に炎症が起こったり粘膜が少し剥ける、いわゆる胃炎では、胃がヒリヒリする比較的弱い、ガマン可能な痛みが生じます。
 粘膜下層まで炎症が及び、胃の壁が深く掘れたのが胃潰瘍です。比較的神経が豊富な粘膜下層まで病気が及んでいるため、胃炎より強い痛みを覚えます。"胃がシクシクする"というやつです。
 潰瘍の穴がより深く掘れていくと胃の消化運動の駆動力を担う筋肉に達します。痛みは引き続き中程度の痛みを感じます。
 神経の豊富な臓側腹膜まで炎症が及ぶと、ガマンしづらい痛みを感じます。臓側腹膜を破って胃壁の底が抜けると、腹膜炎を起こします。腹膜炎になるとガマンできない痛みとなるので、救急車を呼ぶ方もいます。底が抜けると、塩酸である胃酸やペプシンと呼ばれるタンパク分解酵素が敏感な腹膜の神経を化学

的に刺激するため、強い痛みを生じます。加えて、穴から食物や、食物に含まれる細菌が腹腔へばらまかれ、強い炎症を惹起します。胃ガンも同様に、胃壁を内腔側から腹膜方面へ発育し、炎症が広がります。ガンが臓側腹膜を破り、腹腔内細胞が飛び散るとガン性腹膜炎となります。ガンの炎症は、細菌感染による腹膜炎と比べると、熱や痛みがあまり無く、初期に気づかれることはまれです。次第に腹腔内には"腹水"という水が溜まります。しかも、ガンによる腹水は薬が効きにくく、おなかがパンパンに張ってくる痛みを覚えます。
 胃の周囲を見ますと、手前が食道で先が十二指腸につながっています。どちらも胃と近接しているため、痛みも似ており、食道はゲップや胸焼けとして感じたり、十二指腸潰瘍は背中側の壁が掘れると、背部痛として感じることもあるくらいで、区別はつきません。

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