急性膵炎と慢性膵炎

 膵臓の炎症は、数時間から数日で発症、悪化し、場合によっては命にかかわることのある急性膵炎と、急性膵炎やその前段階を繰り返し、数年かけて徐々に膵臓の細胞が減少して、臓器としての機能を失う慢性膵炎があります。
急性膵炎:
 
膵臓は前述のごとく、デンプン質、脂質、タンパク質を分解(消化)する酵素をもっています。十二指腸や小腸の内腔の粘膜は腸の分泌物で覆われ、仕組み上、膵臓の消化酵素に影響を受けなくできているため、胃から来た食物のみが消化されます。膵臓の中でも作られた消化液は、消化液の影響を受けない膵管の中へ放出されるので、普段は問題が起きません。しかし、膵管の内圧が上がったり、膵液が膵管以外へ漏れるのを防ぐバリアが何らかの原因でこわれると、消化液は管から外に出ていきます。膵臓も他の体の組織と同様に、デンプン質、タンパク質、脂質でできているため、消化液が漏れるとひとたまりもなく消化されてしまいます。こうして起こった自己消化による膵臓の炎症が、急性膵炎です。
 膵管から漏れ出た消化液は、次々と周囲の消化腺を壊し、膵臓を溶かしながらその周囲を取り囲む脂肪組織、神経などを傷害して、お腹や背中の耐え難い痛みを起こします。また、消化液の一部は血管を破り、血液の中へ侵入します。この結果、消化液は血液に乗って膵臓以外の臓器にも悪影響を及ぼします。なお、膵炎の原因は、過度のアルコール摂取が最も多く、次に胆のうから落ちてきた胆石が、膵管・総胆管の合流部付近につまり、膵管が閉塞した場合です。
診断:血液検査では、血中に漏れたアミラーゼやリパーゼが検出され、正常値の10

倍以上になっているのをよく見かけます。また、CTなどの画像診断で、膵臓や周囲の脂肪組織が自己消化で解けています。
治療:膵臓で消化液が作られたり分泌されると自己消化が進むので、絶食とし、腸での消化を必要としない栄養補給として、点滴をしながら治まるのを待ちます。また、タンパク分解酵素の働きを抑える薬や抗生物質を注射で用います。
慢性膵炎
 急性膵炎と異なり、急性の自己消化ではないので、痛みなどの自覚症状はほとんどありません。しかし、繰り返す炎症で膵臓の細胞がこわれて、線維などの細胞以外に置き換わっているので、外分泌や内分泌機能が落ちてしまいます。消化液が十分十二指腸へ外分泌されないと、食べ物が消化できないため、下痢をしたり栄養失調を起こします。また、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンが内分泌されないと、糖尿病に陥ります。原因は、男性の場合大半がアルコールの飲み過ぎです。女性の場合は、アルコールに加え何らかの自己免疫異常など原因不明のものもあります。
診断:ゆっくりこわれた膵臓は、線維が沈着したり、カルシウムが溜まる石灰化が起こるので、CTなどの画像診断が有意義です。急性膵炎と異なり、アミラーゼやリパーゼが異常高値を示すことは無く、むしろ低くなっています。
治療:予防も兼ねて、禁酒が効果的で、病気の進行を防ぐにはタンパク分解酵素阻害剤を内服します。消化ができず下痢をしている場合は、消化酵素の内服や低脂肪食などの食事療法が必要です。糖尿病になっている場合は、血糖降下剤は効きにくいため、インスリン注射の導入を行います。

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