| News | |
|
ズームレンズ (神蔵掲載のエッセイ) 2001/3/25 | ||
|
ズームレンズ | ||
|
20世紀最後のクリスマスに、デジタルカメラを購入した。コンパクトタイプながら、ズームレンズが装着されており、撮りたい景色がファインダーだけでなく液晶画面にも映し出されるという現代的なカメラです。久しぶりにカメラを手にすると、学生時代、写真に熱中していた頃の思い出が次々とよみがえってきました。大学入学当時、家庭教師をして手にしたお小遣いを元手に、ちょっと旧式な一眼レフカメラを購入しました。そして、最初に買ったのが28mmの広角単焦点レンズでした。カメラの標準レンズが50mm、当時のコンパクトカメラについていたレンズが 35mmなので、28mmレンズは、今まで見たことのない広い範囲を映し出すことができるため、空間を越えた表現力があると感じました。しかしいくら表現力があるレンズが付いていても、ファインダーを覗いている人間のイマジネーションが貧困では、よい写真が撮れるわけはありません。近づいて人を撮ると、歪んでしまい、のっぺりとした顔になったとブーイングの嵐です。風景を撮っても時間と修行が足りず、いつまでたっても失敗作ばかりです。そこで広角はあきらめ、望遠レンズに目を向けました。広角は35mm、28mm、24mmと3種類であとはごく特殊なレンズばかりですので迷いはありませんでしたが、望遠は素人向けでも85mm、100mm、135mm、200mm、300mmとたくさんあり、キリがありません。ちょっとしたポートレイトでは100mm以下で、遠くのものを撮影するときは135mm以上が望遠レンズの常識であるため、最低2本は買わなければならず、学生の身分ではつらいものがありました。何を、どう撮影するか決まっていない私は、とりあえず80〜200mmの望遠ズームを買ってみました。単焦点レンズでは、レンズの持つ視野に合わせて撮影者や被写体が移動し、上手にファインダー内に納めなければなりません。しかし、ズームレンズでは、焦点距離をスライドしてやれば簡単にファインダーに収まるではありませんか。単焦点レンズよりもやや大きめで重たくもありましたが、この変幻自在なレンズの虜になり、大した写真は撮れなかったものの、よくファインダーから見える世界を、ズームイン、ズームアウトしながら見つめていました。高学年になり、時間や被写体に制約ができるにつれ、次第に望遠ズームはほこりを被るようになりました。しかし、焦点距離の移動によって変化するダイナミックな画像は、物事の見かたのお手本として、心に刻み込まれたのです。 そして現在。デジカメに付いているズームは38mm〜95mmとズームの幅は狭いものの、標準的な視野を中心に大変使いやすい焦点距離を押さえています。広くものを見たり、数歩あゆみ寄って、詳細に対象を捉えたりするスタンスが瞬時に取れるのです。久しぶりに、ズームレンズから覗く世界を見て、ふと考えました。 我々開業医には、様々な問題を抱えた患者さんが相談に来ます。そして臨機応変に対応しなくてはなりません。最初は幅広く全体を見て、問題がありそうな部分へズームインしていきます。そこで見えてきた問題は、望遠の視野で解決策を図ります。視野よりはみ出る問題が新たに起こっていたら、広角側へ再度ズームアウトして、全体を見ながら問題をあぶり出します。そして、はみ出たところを中心に、最初の問題もファインダーから外れないようにもう一度ズームインしてファインダーいっぱいに切り取る。鎌倉市医師会の先生方は皆、こんな感じで毎日の診療をこなしているのではないでしょうか?近頃は、最先端医療と呼ばれる大がかりな検査や治療が発展し、喧伝されています。これらによって、様々な病気やその仕組みが解明され人の命も救われているのは事実です。言うなればこれは、超望遠レンズの世界と呼んでも良いでしょう。超望遠の世界は、異次元感覚の像を結び、とても魅力的に映ります。しかし、それは所詮、日常の世界をのぞいたものではありえません。超望遠の単焦点レンズでのぞいてばかりいては、決して被写体の全体像は見えないからです。医療は、益々、複雑になり高度化しています。また、人の人生観が多様化したのにつれて、医療に対する要望も様々になりました。こんな時代にこそ、ズームレンズのようにしなやかに視野角を変え、柔軟にフレーミングしながら問題解決を図る医療が求められているのではないのでしょうか。そして、拡大率が足らない部分は、適切な焦点距離を持つ超望遠レンズへ橋渡しをする。市民にもっとも近いところにいる我々が、50mmの視野角を中心とし、広角から中望遠をカバーするズームレンズになって、その期待に応えなくてはなりません。なお、オートフォーカスではありませんので、くれぐれもピントが外れないように気をつけながら。(^_^) | ||
| 山口内科 山口 泰 | ||